住む人の言葉

築140年の古民家を再生。 滝口家の田舎暮らし。

我が家は築140年の家を改装しています。主人の先祖から受け継ぐ家で、改装したのが2017年のこと。
農家であった主人の祖父が住んでいたのが最後で30年間ほどそのままに。
家はあったけど誰も住んでいない状態でした。それから主人の父が10年ほど前に農業を始めたり、住幸房の方々で米作りをするようになったことで、築140年の家も少しずつ人と触れ合うようになりました。
こどもが増え、将来の暮らしを考えるようになった時、思い切ってこの家を改装して住むことを決断しました。
大工である主人が自ら設計した家です。

自然が近いと気持ちが休まるから、体に優しい。

我が家は、山と田んぼに囲まれています。日本の原風景。そう呼ばれてもいいところに住んでいます。
私が生まれ育ったところは、海の近くでした。都心ではありませんが、住宅やお店が近くにあって
ここまで周りが自然だけというところに住むのは初めてです。
自然が近いところに住まいを構えるということは、不便なこともあるけど、体にも心にもいいものです。
せかせかする気持ちを庭に追い出して、のんびりとした気持ちを家の中に入れることは幸せな時間です。
この家に住む前は、休みの度に「どこかに行きたい」という気持ちが湧いてきていたけど、今はそれが少なくなりました。
当時は外出しないと気持ちが切り替わらないし、休んだ気にならないというか。でも、いざ出かけると疲れて帰ってくる
ことも多くて、なんのための休みだったのか。ということもありましたが、今は家の周りでリフレッシュできます。

不便なものを自分の中で便利にしていく時間を作ると退屈しないものです。

周りは自然ばかりですが、意外と退屈しません。家事が終わった後も、外に出てのんびりしたり、
庭いじりや畑の草むしりなど色々とやることを見つけていくと結構時間が過ぎるのは早いものです。
初夏になると家族で歩いて蛍を見に行ったり、秋は紅葉する山を見に行ったりと季節に合わせて家の近くの自然と遊びながら暮らしています。庭にタープを張ってバーベキューをすればキャンプ気分も味わえるし、休日にどこかの自然まで遊びにいく時間を、家の近くで手に入れた感じです。
大きめのクモやトカゲなど、呼んでもいないゲストが突然家にやってきますが、今ではそれも慣れました。
ここに住んでたくましくなったと思います。自然と寄り添うところに身を置くと不思議と慣れていきます。
平気とまではいかなくても、抵抗がなくなる感覚です。
朝になると鳥が鳴きはじめて、朝日が静かに家の中に差し込んできます。
ここに住めば、鳥の声で目が覚める生活になっていきます。
朝ごはんを作って、洗濯をしてひと段落すると庭に出て、ぼんやりとした時間を過ごすだけでも気分が落ち着いてリラックスできます。

親も子も環境に合わせて自然とたくましさを身につけていく。

コロナで自粛期間の時でも、こどもたちも退屈せず、ストレスなく生活することがきました。
近くで虫を捕まえたり、庭で遊んだり。それは親がこどもに教えた訳でもなくそこにある環境から、こどもたち自身が遊び方を見つけている。自分たちが今いる環境の中でどんなことをしたら楽しいのか。それをこどもたちは自然と身につけています。

「こういう田舎の暮らし嫌いじゃないな。向いてるのかな」と思うようになりました。
最初は夜に明かりがなく暗いのが怖かったり、静かすぎるのが少し落ち着かないというところがありましたが、今ではすっかり慣れて家での時間が心地よく感じます。
ここは、近くで山登りもできるし、自然に囲まれているので、家の中でもキャンプ気分です。こういう家での暮らしはドラマを見て憧れていました。NHKの朝ドラが好きで、毎回見ていますが、特に以前放送された「ごちそうさん」というドラマが好きで、そこに出てくるような大正時代や昭和初期の家の感じが我が家と重なります。
ぬか漬けや梅干しが好きで8年くらい漬けていますが、この家はお漬物を美味しく感じさせてくれる家の雰囲気というか。あと、目の前に畑があるので、自分のところで作って収穫した新鮮な野菜も食べれるので満足しています。
仲間が集まれば、食材として振舞うこともできるし、家で食事をすることが楽しみになります。

夏は窓を開けていれば涼しい空気が入ってきます。
クーラーも使いますが、使う頻度は少ない方だと思います。
冬は薪ストーブで家全体がじんわり暖かいので、快適です。

住幸房が伝えたい、家づくりのポイント

滝口家の先祖は農家としてこの土地で米作りしてきました。
農家の家は広いだけでなく、長靴のまま食事や休憩ができる土間があったり、引き戸を外せば親戚が集まれるような大きな部屋ができたりと、農家ならではの暮らしをするために作られています。
家の中心には大黒柱がどっしりと構えて、自然の木の曲がりを活かした梁組みを支え、その梁組みが大きな屋根を支えることで、広々とした吹抜けを作っています。この立派な骨組みの良さを最大限に活かして、現代の生活に合うように室内を再構成しています。
室内の壁は土壁を基本として、しっくい仕上げか杉板張りとしていますが、土壁と杉板どちらも湿気を吸ったり吐いたりするので、湿気がこもりにくく、梅雨でも室内がジメジメしません。また、土壁は熱を蓄える性質も持っています。 夏は夜の冷気を蓄えて室内を涼しく保ち、冬は薪ストーブなどの熱を蓄えて、空調に頼らないぽかぽかとした自然のぬくもりを感じることができます。 古い民家にありがちな隙間風や窓際の寒さは、現代の技術を使って、きっちりと止めることができます。調湿作用と内装の表面温度が、室内環境を快適にするためのポイントです。

滝口家の日常

この家を任せた。
鬼瓦がそう言っている
ような気がする。

そよそよ、ゆらゆら、きらきら。
すぐそこに自然の音を
のんびりと感じられる時間があることは、
ありがたいことで、静かに嬉しいこと。

仲間が集まったら
みんなでご飯を
作りたくなるキッチン。

木は家となって生まれ変わり、
家族と呼吸しています。

ずっと前から
過ごしてきた時間を
木は風合いとなり物語る。

多雨多湿。
夏暑く、冬寒い。
四季がある日本には、
それに合う家づくりがある。

おんなじ屋根の下で、
いろんな輪が繋がっている。

家にいながら、四季を感じられる。
当たり前に思うことが
幸せに思えるという幸せ。